短編小説の集い「のべらっくす」第8回にて初参加いたしました。

テーマは『緑』。初めての参加で、押っ取り刀で著述したものですが、読んでくださいませ。

よろしくお願いします。

novelcluster.hatenablog.jp

 

風変わりな結実

 花びらの色できれいな緑なものは見たことがない。
 だいたいの花びらの色は赤か黄色、それに白、せいぜい紫か青程度だ。
 「でも、鮮やかで濃い緑の花があったら葉とまぎらわしいでしょう」
 誰かがこうささやく。
 「しかし薄緑色で、一見白に近い色の花は一応はあるとは聞くが」
 他の誰かが『緑色ではある花』について存在をほのめかしてそのささやきに返した。
 「目立たないぞ、少なくとも人の目では」
 「いや、花は色なんかじゃない形だ」
 「でも葉の色と同じなら形が変わっていても目立たぬことこの上なしだ」
 それをさえぎり別の誰かが今までの話し合いをなしに使用と述べた。
 「葉っぱそのものが緑じゃない植物だってある。白や赤の葉を持つものだ」
 その一言に、他の誰かがこう切り返す。
 「なら、白や赤の葉に鮮やかな深緑の花が咲くというのはありうるのか……?としたら本末転倒だ」
 「そうか?それでも一度は見てみたい」
 「でもそんなことしでかしたらその花はすぐに絶滅だ」
 会話がさらに弾む様子に感じ取ることができるであろうか。ただ……会話がある場所はまだわからないようでもあった。
 「いや、葉や茎が白や赤で花が緑の植生帯になれば、その花は絶滅することはなかろう」
 「そんな環境、絶対に発生するはずないから」
 「この星が長きにわたって進化し続けてきた大自然、何が起こるかわからないぞ」
 誰の発言だろうか、その発言の主はいまだにわからない。
 一方…
 「人のいない方向から、なぜか人間の言葉をしゃべる気配が……」
 現地を探っている調査員が調査本部に謎の声を話しているものがいる様子であることを伝える。
 「調査員、手持ちの高感度ミツバチ型カメラを数体放って、音の発生場所を探ってくれ」
 「ラジャー」
 高感度ミツバチ型カメラを調査員は放った。まさにミツバチそのものの形状かつ、行動も花を見つけることにより適応したプログラムを内蔵している。
 端から見た姿はミツバチそのものだ。
 「しかし、これで人の声らしき音声の発生源がわかるのだろうか…」
 ミツバチ型のカメラはまさに遠くから見たところ本物のミツバチに見える。以前、このミツバチ型カメラのカメラ機能が壊れ、よりによってスズメバチに向かって飛んでいった事案があった。
 それについては、故障後のミツバチ型カメラを他のミツバチがその機械を仲間だと勘違いして蜂球を作り、スズメバチを殺したこともあったという話がこの調査員の所属する調査団体に広まっているらしい。
 だがこれを詳しく話すと、横道にそれてしまうのでこれ以上詳しくは述べない。
 要は、このミツバチ型カメラは緊急調査時点まででの最新技術の粋を集め究めて製造された機械である。
 もう一つ、なぜ緊急にミツバチ型カメラを使った調査が行われることになったのか------
 人の言葉が聞こえる方面から、「ここ最近人の言葉が聞こえて、その声の出所から花の香りがする」との報告を発生現場周辺の住民から受けたのだ。
 とにかく、これに関しては調査団体も何らかの実績を欲していたこともあって、早急に調査開始となったわけである。
 調査員が持つモニターに映る映像、緑色でいかにもいわゆる雑草と分類づけられる植物の葉や茎の姿ばかりが見受けられる。
 「気のせいだったか…結局よお」
 そのとき、ミツバチ型カメラは、その複眼レンズで緑色の中でも彩度の高い緑色の物体の姿をとらえた。
 「え、もしや…… これが、謎の音声の?しかしどこから声が出ているかはまだわからないんだ……」
 しかし、まもなく、その植物の花と茎の境目が開いて閉じる状況をミツバチ型カメラは捉えたのだ……!!
 「花がしゃべっている。緑色の花だ、もしかしてこれは植物ではなくて草花の形をした動物なのか?」
 調査員は、とり急ぎ調査本部の上司に謎の花の形をした緑色の言葉をしゃべる生命体について伝えた。
 「おい、冗談だろ」
 「ま、まずは見てください。この映像を」
 緑色の花、しかし茎や葉は白い。その花と付け根の間が口のように開く。
 「花がきれいな緑色なんて普通は信じられないが我々のような花だっていることはいつか知られるかもしれないと思ったんですがね」
 別な花燃同様な動きを見せ、

 「そうですよ。我々は花でも鮮やかな緑色なのですよ、だから我々はそこに在住している人の言葉を覚えてしゃべって『緑色の花がそこにある』って知らせたかった」といった。
 カメラが写した映像を調査本部に送り続ける調査員。
 「信じられないようですが、これが花、なんです……」
 調査本部の上司が眉間のしわを立てる。
 「花、というよりも今はやりの陳腐な未確認生命体だな。こんな話、世界中の人間は基本的に信じないぞ」
 それにもかかわらず、調査員はその存在は本当なのだと念を押したくなる気持ちになっていった。
 「主任、あなたが意地はってらっしゃるうちに、しゃべる花たちの一輪が何かを言いつつ枯れそうに…」
 そう調査員が述べているうちに、
 「私は程なく枯れる。しかし実をつける…鮮やかな深緑色の実を、そしてその実はこの世とは思えぬほど甘い…」
 とその鮮やかな緑色の花のうちの一輪が花びらを落とし、そしてそのまま子房が膨らみ、開花時の花びらの色と同様、いやさらにはっきりと彩度が高い緑色の梨の実と同じくらいの大きさの実をつけた。

 後日、その調査員のとらえた鮮やかな緑の花と緑の実の映像は、動画サイトで超常現象のタグとともに公開された。むろん、その花が人の言葉をしゃべったことが理由だった。

 

(了)